秋季大会第二回戦
<2016年10月16日(土)>


去る10月16日(日)に、世田谷区軟式野球連盟秋季大会の第二回戦が行われました。
この日、試合前のミーティングでは監督より「試合勘が鈍っていないか心配だ」との言葉がありました。
それももっともで、第一回戦が行われたのは8月初旬のことで、この間、約2か月もの空白期間があったからです。
その間は天候に恵まれず練習試合もできない状態が続き、勝敗を分ける一瞬の判断を誤る危険が懸念されました。
それでも試合は待ってくれません。我々RBの攻撃から試合開始です。

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▲練習を終え選手がベンチに戻り、試合開始までのわずかな時間。
微妙な間が支配するベンチで、何を思うか態度のデカい30番と神妙な23番。


写真左、「試合勘が鈍っていないか」と心配する監督の胸に去来するのは「勝利への渇望」か、
はたまた「バカだけはしないでくれ」という祈りでしょうか。

一方、右に座るS選手。今シーズンは昨年末の怪我により、まともに試合に出場する機会がありませんでしたが、
それでもほとんどの試合に出席。彼氏との熱愛にうつつを抜かし、名ばかりスコアラーに堕したU嬢に代わり、
チームのためスコアをつけてくれました。
この試合では、今ではチームNo.1に上達したそのスキルで、勝利に貢献してもらいましょう。


先手必勝を期し、初回に注力を注いだ攻撃でしたが、先頭K選手は2球目を打って情けないキャッチャーフライ、
2番K選手も3球目がセカンドゴロと、わずか5球で二死となってしまいます。
ここで頼りになる3番Y選手が「きっと何とかしてくれる」とのベンチの熱い期待を背負ってバッターボックスへ。
やや打ち急ぎの感のある1、2番とは違い、慎重にボールを選びフルカウントまで粘ります。
しかし、出塁に向け何とか粘りはしましたが、残念ながらショートゴロに倒れ、初回に先制し主導権を握るという目論見は果たせませんでした。
Y選手の打球はボテボテだったので、俊足を活かし「すわっ、内野安打か!?」という微妙なタイミングでしたが、審判のジャッジはアウト。
実はY選手、俊足に似合わぬ遅刻魔で、この日も寝坊のためか集合時間ぎりぎりに到着し、
メンバーに散々っぱら心配をかけていました。バッティングもまだ寝ぼけていたのかもしれません。
逆にキチンと集合していれば、野球の神様もセーフにしてくれたかもしれません。


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▲本日、3番を打つY選手の第一打席。初回、二死走者なしから何とか三者凡退を避けるため、
セフティバントを試みるなど相手を揺さぶりますが……。


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▲初回の守り、この日の先発はT投手。
秋季大会の第一回戦で見せた「男気あふれるピッチング」をこの日も見せてくれるのでしょうか?


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▲初回裏、先頭打者にヒットを許し、続いて三振振り逃げ・暴投とエラーを重ね、早くも1点を失いました。
Y選手と同様、寝ぼけているかのような守りで、一呼吸置きにマウンドで内野陣が集まります。


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▲初回表の無得点、その裏の先頭のヒット、続く連続エラーで踏んだり蹴ったりのT投手。
その後、何とか立ち直りましたが「投球リズムが悪すぎる」とバッテリーは監督に怒られ、浮かない顔です。


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▲前日の練習試合二試合で、各々100球近くの力投を見せてくれたI投手とM投手。
この試合は「何とか先発だけで踏ん張ってくれ~」と祈っているような、頼りない背中が怖いシーンです。



初回こそ最少失点で切り抜けましたが、その後、3回に同じような失策で1点を失い、相手ペースで試合は進むことになります。
しかし、何といってもまだ2点差。ワンチャンスでひっくり返すことは可能です。事実、迎えた4回表、無死二塁という好機を迎えました。
この回先頭の2番K選手が、まるで目覚まし時計のような快音を発したライト線を破る2塁打で出塁。

一気にチームに「喝」が入ります。続く3番は、こうしたチャンスでは必ず結果を出してくれるY選手。
これも期待通りの快打──とはいきませんでしたが、ふわりとライト前に上がった微妙な当たり。
これがポトリと落ちる幸運なヒットになり、無死一三塁とチャンスが拡大した──かに思えました。

どっと盛り上がるベンチ、「よっし!」と気合の入る4、5、6番バッターたち。
そんなさなか三塁側ベンチ前では、信じられない光景が繰り広げられていたのです。

当然、状況は無死一三塁と信じ切っていたベンチ全員の前を、二塁ランナーのK選手が、三塁を蹴り本塁に向かって(マジで)疾走していたのです。
誰もが「マジ?!」と思った次の瞬間、ライト前に落ちた当たりは、内野からバックホームされキャッチャーに戻されており、
みすみすアウトになるためだけにY選手は(マジで)本塁に向かっていることが分かったのです。



何かの冗談としか思えないありえない暴走に、ベンチ全員の視線は、三塁コーチャーボックスに向かいました。
そこにはボックス周辺を夢遊病患者のようにウロウロしながら、顔面蒼白で、意味不明な言葉を口走るベンチスタートのK選手の姿がありました。
いわゆる「暴走」をしたK選手は自らの打球判断から、ハーフウェーにいつつも打球が落ちるまではスタートを切っていませんでした。
しかも浅いライト前の当たりでしたから、本塁生還は難しいと思いつつも、当然の全力疾走をしてオーバーランを試みます。
その走塁に向けて三塁コーチャーから回れの指示があれば、後ろのフィールドでは打球をハンブルしたか中継ミスがあったかと推察し、速度を上げて突っ込みます。
しかし待っていたのは、返球をミットに収めたキャッチャーだったのです──。



大切な、大切な、大切な三塁コーチャーボックスですが、そこにベンチスタートのK選手がいたこと──これがこの悲喜劇の引き金となりました。
実はRBには約束事があって、コーチャーボックスにはベンチスタートの選手は入ってはならない、と監督から命じられています。
理由は代打、代走でいつ起用されるか判らないことだけでなく、仲間の怪我などのアクシデントにも即対応しなければならないからです。
予測できない事態に常に準備をする必要があるなら、コーチャーボックスに入れないのも当然です。

しかしこの日、何故かベンチスタートのK選手が最も大切な局面で三塁コーチャーボックスに入っており、それを誰も咎めなかったのです。
このK選手、私生活が忙しく、なかなか練習試合にも参加できておらず、その練習試合も天候不順でまともに消化できない中、
何とかチームに貢献したいとの意欲から自らコーチャーボックスに入ったのです。しかし「試合勘が鈍っていないか心配だ」との危惧が的中してしまったのです。



それでも、仲間の犯したミスをカバーするのが野球です。この後に続く4、5、6番に希望を託します。
何といっても、まだ一死二塁というチャンスは変わらないからです。

しかし、チームの精神的支柱である4番O選手は力んで最悪のサードゴロ。 最低でもランナーを三塁に送るバッティングすらできません。
続く5番は先発投手のT選手。5番の不甲斐なさに気迫を全身にみなぎらせますが、何と死球をもらってしまいます。
それならば、ロングも期待できる6番N選手に期待しましたが、あえなく最悪中の最悪であるショートへのポップフライ。
これではベンチスタートK選手のミスをカバーできません。

このチームには、男気を見せる選手はいないのでしょうか?

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▲不甲斐ない4番の後を打つ先発投手のT選手。
この打席は、気迫のデッドボールでクリーンナップの重責を果たします。
少し横幅が大きくなったお蔭でしょうか?



4回表の絵に描いたような拙攻は、間違いなく流れが相手に行ってしまうような拙攻でした。
何しろ信じられないことに、三塁コーチャーボックスに“壊れた信号機”が立っていたのですから、
驚愕、呆然、落胆も当然で、それが証拠に、4、5、6番でリカバリーができていません。そればかりか、
わずか2点が重くのしかかっていて、躍動感あふれるプレーができていないのです。

こうした沈痛な状況は一人のファインプレー、一人の勇気あるプレーによってしか変わりません。

その一人が先発のT投手でした。
4回表に絶好の得点機を逃し、流れが完全に相手に行ってしまったと思われる4回裏に、これに立ち向かうピッチングをしてくれたからです。
前の回に“気迫のデッドボール”をもらった根性をピッチングでも見せてくれ、相手の6、7、8番をわずか8球で片づけます。
これで絶望の淵に沈んでいたチームが息を吹き返します。


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▲4回裏、見事に悪い流れを断ち切りベンチに戻るT投手。
気迫に満ちたいい表情です。これが「エ―スの風格」と呼ぶべきものなのでしょう。


T投手の気迫のピッチングが伝播したのか、5回表の攻撃で我々RBは息を吹き返します。

不思議なもので、こういうときは何かが必ず起こります。
さっそくこの回の先頭7番のK選手の当たりを因縁の相手ライトがエラーをし、
続く8番M選手とのヒット&ランが決まって無死一三塁という4回と同じような、ただし今回は確実なチャンスが訪れます。


そして続く9番T選手の打席、1-2から再びヒット&ランで1点を返し、なおも無死一二塁という場面を作ります。
9番T選手の当たりは投手脇の当たりでしたが、三塁ランナーのK選手が猛然と本塁に飛び込みフィルダーチョイス。

正にT投手の気迫が乗り移ったようなプレーでした。

そしてこの後、送りバントの失敗などありましたが、3番Y選手の左中間を破る二塁打が飛び出し、ついに3対2と逆転に成功したのです。

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▲T投手の気迫を体現し、気迫のライトエラーで三塁まで進んだK選手。
ただのラッキーボーイなのか、気迫の主なのか。
ちなみに三塁コーチャーは、壊れた信号機・K選手ではありません。


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▲まるで「人間魚雷」のような決死のダイビングを決めて1点をゲットしたK選手。
泥まみれになりながら、勝利への執念と、少年のような笑顔をチームに与えてくれました。



しかし、最後まで何が起こるか判らないのが勝負の常です。

3対2の1点リードで迎えた5回裏の守備。

誰もが4回の気迫のピッチングの再現をT投手に期待したのですが、
逆転をしたことで急に守りのピッチングになり、初回のような不安定な投球に逆戻りです。

そして一死からでしたが、2安打を打たれている相手1番に、腕が振れずに四球を与えてしまいます。
動揺するT投手の心の不安定がチーム全体に伝播し、2番には守備が再び乱れて傷口を広げ、
完全に浮足立ったところで3番に二塁打を喫します。

ここでたまらず投手交代。

Y選手がマウンドに上りますが、今度は流れを止められずあっという間に3点を奪われてしまったのです。

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▲逆転をした次の回に訪れた「悪い流れ」を堰き止めるべくマウンドを託されたY選手。
「ここは俺がチームを救ってやる」と言わんばかりの後ろ姿ですが、結果は火に油を……。



最終回となった6回表も各選手は食い下がり、意地を見せはしましたが、
結局は相手投手にかわされ三者凡退に終わりました。

エラー、四死球、ボーンヘッド、力み、等々。
我々RBの秋季大会は、これにより負けるべくして負け、残念ながら2回戦敗退となったのです。
敗因を嚙み締め、ミーティングでは監督から以下の総括がなされました。


「緊張の場面でしっかり守れないメンタルの弱さ。
送りバントなど決めなければいけない場面で決め切れない練習不足。
ベンチスタートの選手がコーチャースボックスには入らないというチームの決め事を大切にしない当事者意識の希薄さ。
それでも失敗した仲間を救わなければいけないのにそれもできない気持ちの薄さ、野球に対する情熱不足。
しかし本当の敗因は、投手交代の時期を誤った采配にあり、チームの底上げを成し得ていないリーダーシップ不足にある。
すなわち総ては監督にあるのである。
この試合も、野球の古くから言われている常識、『敗北は監督の責任』なのである」


このミーティングの輪の中で、一人涙を流している者がいました。

壊れた信号機・K選手でした。

しかし我々RBがやっていることは野球であり、それは勝ち負けを争うものであり、
そのため直向きに練習試合や合宿をやっているのです。
そこに充分な精力を注いでいないから、ミスが生じるのです。
キツイ言葉かもしれませんが、K選手に言えることは「泣くなら練習で泣き、試合では笑おうよ」なのです。


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▲試合後のミーティングのひとコマ。
壊れた信号機・K選手を慰めているM選手は、きっと「泣くなら練習で、試合では笑おうよ」と言っているに違いありません(よね?)。







悔しい秋季大会2回戦敗退から一週間、RBの緊急集会が開かれました。
負けを単なる負けに終わらせないこと、そこから学ぶべきことを学ぶこと──
これがこの緊急集会の目的でした。

当日の試合のスコアを全員で振り返り、
そこで何が行われ、何が行われなかったのか、どうすべきだったのか、
何故すべきことができなかったのかを1イニング毎に検証していったのです。

無論、当事者はそこで考えていたこと、思ったことを証言。
これに周囲から疑問や意見、注文が飛び交い、選手としてすべきことを共有し、
チームの約束事としていったのです。

この間、実に3時間以上を費やし、会場は居酒屋の座敷でしたが、お酒を飲む者はほとんどいませんでした。
会の終わりには、メンバーの一人ひとりが次なる戦いに向け、どのような決意で臨むかが語られました。

真剣に優勝を目指していない自分に気づいた選手もおり、
理屈や言葉ではなく行動で気持ちを表すことを誓い、一部リーグ優勝を目指し、我々RB は再出発をしたのです。
【了】

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▲RBの緊急集会では司会進行をS監督自ら務め、スコアを前にした選手たちに、
ラインナップの説明、サインの意味、采配の意図を語ります。


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▲いつも冗談しか出ない飲み会のような光景ですが、全員がスコアを前に深刻な表情です。
試合の流れを深堀する監督から、いつ発言を求められてもいいよう身構えていました。


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▲この会の準備をしたD班メち。
右から人間魚雷・K選手、エンドランを決めて人間魚雷を突っ込ませたT選手、

そして壊れた信号機・K選手はようやく涙も枯れたようです。